適切な範囲での権利取得に向けた特許制度
に関する調査研究報告書
平成29年3月
一般社団法人
日本国際知的財産保護協会
海外調査 ま
各国制度 現状や利用実態を 報告書
第2部 総括 し ま た
また 補正 訂正等 制度利用 要件
を国及び制度 記載した
国内調査 ま
アン 調査やヒアリン 調査
結果 現行制度を大 く変更
ユ ザ ニ ズ 多く い
示 た
調査研究 背景
特許制度 け 特許請求 範囲 特許発明 権利範囲 基 い 定 点 い 重
要 意義を有し い し し 特許出願時 特許発明 将来 実施 態様を全 予測し 特許請求
範囲 映 困難 あ 適 範囲 権利を 得 維持 べく 特許出願人
補正や訂正等 機会 与え い
補正 い
訂正 い
訂正審判請求等を要件 し い訂正 再抗弁 い
権利 有効性 い 特許庁 判断を け 機会 い
記 - い 新た 制度 導入や既存 制度 利便性 向 等を希望 声 あ
い 権利者 第 者 い 立場 得 利益を異 あ そ
制度を導入 否 検討 当た ユ ザ ニ ズや他国 制度 利用実態等 把握 必須
あ
調査研究 目的
適 範囲 権利 得 向けた特許制度 い ユ ザ ニ ズ及び他国 制度 現状を調査し
権利 活用 活性化 向けた検討 場 け 基礎資料
ア バイザ 会合 検討
本調査研究 関し 専門的 知見を有 者3名 弁護士 弁理士 日本知的財産
協会専門委員会 委員 ア バイザ 会合を全3回開催した
質問票調査及びヒアリン 調査 実施 際し 質問案 作成及び調査結果
析 報告書 ま 対し 助言及び監修を けた
公開情報調査
書籍 論文 判例 調査研究報告書等を利用し 日本 米国 英国 独国 EPO
中国及び韓国 け 補正 訂正等 制度 い 調査した
国内アン 調査
国内企業等1,093者を対象 記 い 広く意見を 集した
海外質問票調査
記海外5 国 い 法 事務所(各 国5者) 対し 各国 権利化 特許 請求 範囲を見直 制度及びそ 利用 実態を調査した
国内ヒアリン 調査
アン 対象者 うち10者 対し
アン 回答を踏まえ
深掘 ヒアリン を実施した
海外現地ヒアリン 調査
海外質問票調査対象者 うち各国3者
対し 質問票回答を踏まえ
特許制度における特許請求の範囲は、特許発明の権利範囲がこれに基づいて定められる 点において、重要な意義を有している。しかし、特許出願時に特許発明の将来の実施の態 様を全て予測し、特許請求の範囲に反映させることは困難であることから、適切な範囲の 権利を取得・維持するべく、特許出願人には、補正や訂正等の機会が与えられている。
(1)補正について (2)訂正について
(3)訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について
(4)権利の有効性について特許庁による判断を受ける機会について
上記(1)-(4)については、新たな制度の導入や既存の制度の利便性の向上等を希 望する声はあるものの、いずれも権利者と第三者のいずれの立場かによって得られる利益 を異にするものであり、それらの制度を導入するか否かの検討に当たって、ユーザーニー ズや他国の制度の利用実態等の把握は必須である。
そこで、本調査研究では、適切な範囲での権利取得に向けた特許制度についてのユーザ ーニーズ及び他国の制度の現状を調査し、権利の活用のさらなる活性化に向けた検討の場 における基礎資料とすることを目的とする。
本報告書をまとめるにあたり、ご指導、ご協力を頂いたアドバイザーの方々をはじめ、 海外質問票及びヒアリング調査にご協力いただいた国内ユーザー及び海外現地法律事務所 の方々に厚く御礼申し上げる。
平成29年3月
バイザー、オブザーバーの方々及び事務局は以下の通りである。
アドバイザー (敬称略、五十音順)
小椋 正幸 志賀国際特許事務所 副所長 弁理士
河瀬 博之 日本知的財産協会 特許第2委員会委員長 弁理士、中外製薬
株式会社
山内 貴博 長島・大野・常松法律事務所 弁護士・弁理士
オブサーバー (敬称略、五十音順)
今浦 陽恵 特許庁 審査第一部 調整課 企画調査班長(課長補佐)
大野 明良 特許庁 審査第一部 調整課 企画調査班 調査係長
佐久 敬 特許庁 審判部 審判課 審判企画室 課長補佐
素川 慎司 特許庁 審査第一部 調整課 企画調査班 調査係長
高橋 克 特許庁 審判部 審判課 審判企画室 課長補佐
事務局
川上 溢喜 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会国際法制研究所 所長
小野 秀一 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会国際法制研究所 主任研究員
アドバイザー会合の開催は以下のとおりである。
第1回会合 平成28年9月26日 調査研究の目的・内容の共有、スケジュール確認 第2回会合 平成28年12月21日 各調査結果報告
謝の意を表したい。
(以下、アルファベット順)
【米国】
Birch, Stewart, Kolasch & Birch, LLP Buchanan Ingersoll & Rooney PC Kramer Levin Naftalis & Frankel LLP Oliff PLC
Sughrue Mion, PLLC
【英国】
EIP Europe LLP
Hoffmann Eitle, London Office JA KEMP
Mewburn Ellis Reddie & Grose
【独国】
BOEHMERT & BOEHMERT Hoffmann Eitle
Isarpatent
Krieger Mes & Graf v. der Groeben Vossius & Partner
【中国】
Beijing East IP Ltd.(北京东方亿思知识产权代理有限责任公司)
Beijing Sanyou Intellectual Property Agency Ltd.(北京三友知识产权代理有限公司) CCPIT PATENT AND TRADEMARK LAW OFFICE(中国国际贸易促进委员会专利商标
事务所)
Dragon Intellectual Property Law Firm(北京银龙知识产权代理有限公司) Linda Liu & Partners(北京林达刘知识产权代理事务所)
【韓国】
D.R.CHOI International Patent Office(崔達龍国際特許法律事務所)
KANG&KANG International Patent & Law Office(康&康国際特許法律事務所) Kim & Chang(金&張法律事務所)
Lee & Ko
目
次
第1部 調査研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第2部 補正及び訂正に関連する制度及びその利用実態
A. 総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
B. 日本
1 権利化前における補正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
2 訂正審判 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3 異議申立及び無効審判における訂正の請求 ・・・・・・・・・・・ 28
C. アメリカ合衆国
1 Amendments in applications ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
2 Reissue ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
3 An amendment in Ex Parte Reexamination ・・・・・・・・・・ 53
4 An amendment in Inter Partes Review ・・・・・・・・・・・・ 60
5 An amendment in Post-Grant Review ・・・・・・・・・・・・・ 67
6 海外現地ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71
D. 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
1 Amendment of an application before grant ・・・・・・・・・・・ 79
2 Amendment of a specification after grant ・・・・・・・・・・・・ 82
3 Amendment of patent in infringement or revocation proceedings ・ 87
4 Correction of errors in patents and applications ・・・・・・・・・ 91
5 海外現地ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
E. ドイツ連邦共和国
1 Amendments to the application ・・・・・・・・・・・・・・・・ 100
2 Procedure to limit or revoke the patent ・・・・・・・・・・・・・ 101
3 Limitations in the opposition ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103
4 海外現地ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106
F. 欧州特許庁(EPO)
1 Amendment of the European patent application ・・・・・・・・・ 111
2 Request for limitation or revocation ・・・・・・・・・・・・・・・ 114
3 Amendments during opposition proceedings ・・・・・・・・・・・ 121
4 海外現地ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 125
G. 中華人民共和国
1 出願の補正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128
2 無効宣告手続における専利書類の補正 ・・・・・・・・・・・・・・ 132
1 権利化前における補正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 143
2 訂正審判 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145
3 特許無効審判手続における特許の訂正 ・・・・・・・・・・・・・・ 151
4 特許取消申請手続における特許の訂正 ・・・・・・・・・・・・・・ 153
5 海外現地ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 155 第3部 国内制度に対するユーザーニーズ調査
A. 国内アンケート調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 165 B. 国内ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 349
1
3 1 調査研究の目的
特許制度における特許請求の範囲は、特許発明の権利範囲がこれに基づいて定められる 点において、重要な意義を有している。しかし、特許出願時に特許発明の将来の実施の態 様を全て予測し、特許請求の範囲に反映させることは困難であることから、適切な範囲の 権利を取得・維持するべく、特許出願人等には、補正や訂正等の機会が与えられている。
(1) 補正について
権利化前の段階では補正の機会が与えられている。しかしながら、いつでも補正できる とすると第三者の監視負担が大きくなることから、補正できる期間を制限している。また、 特許請求の範囲について補正が何回も行われると、その都度審査を行うことが必要とされ るため、審査遅延をもたらす一因となっていたことから、二回目以降の拒絶理由通知に対 する特許請求の範囲の補正については、既に行われた審査結果を有効に活用できる範囲の ものとするなど、補正ができる内容的な制限を設けている1。特許出願人は、これら時期
的制限や内容的制限の中で権利範囲の見直しを行っている。
(2) 訂正について
権利化後に特許請求の範囲を見直す手続としては、無効審判等における訂正請求や訂正 審判がある。しかし、訂正が認められた場合に、遡及効が生じることもあり、訂正前の特 許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれること となると、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、いずれも実質上特許 請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正は認めていない。
一方、米国においては、権利取得後においても一定の期間内であれば特許請求の範囲の 拡張も認められる再発行制度(reissue)2があるが、その利用実態等については不明な点も多
い。
そして、我が国において権利化後に特許請求の範囲を見直す手続等については、平成27 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究「知財訴訟に関する諸問題に関する法制度面から の調査研究」3において、特許請求の範囲の実質的な変更や拡張を認める仕組みについて法
制面からの検討が行われており、そこでは、「特許査定時に出願人の検討が不十分だった権 利についてクレームを適切に補正できることはあり得るが、中用権や遡及効制限が必須で あり、現行制度の考え方を大きく変えるものであるから、十分に時間をかけて慎重な検討 が必要である」とまとめられているところである。
(3) 訂正審判請求等を要件としない訂正の再抗弁について
権利化の段階において審査官や出願人等が発見できなかった無効理由の原因となり得る 公知文献等が権利化後に発見された場合に、前段のように権利者が自発的に訂正審判を請
1 特許法第17条の2第5項、特許・実用新案審査基準 第IV部 第1章 3.補正の実体的要件 2 米国特許法第251条
4
求することで無効理由を回避することも考えられるが、無効審判において訂正請求を行う ことや、侵害訴訟において被疑侵害者からの無効の抗弁への対抗策として訂正の再抗弁を 行うことも考えられる。後者の訂正の再抗弁については、「実際に適法な訂正審判請求等を 行っていることが必要」等とする裁判例が複数あり、原則として、特許庁への訂正審判請 求や訂正請求を行わずに、訂正の再抗弁を行うことができない運用がなされているが、権 利者は、訂正審判によって権利範囲の減縮が早期に確定することを防ぐとともに、紛争の 長期化につながる無効審判の誘発を防ぐために、訂正審判請求等を躊躇する状況であるた め、訂正審判請求等をしなくても訂正の再抗弁ができることを明確にすべきとの指摘4が
ある。
(4) 権利の有効性について特許庁による判断を受ける機会について
侵害訴訟において侵害訴訟の被疑侵害者は、無効審判請求と無効の抗弁という2つの手 段を選択できる一方で、権利者は、被疑侵害者が無効審判を請求しない限り、特許権の有 効性について特許庁による判断を受けることができない。このため、機会均等の観点から、 侵害訴訟の権利者等の求めに応じ、侵害訴訟において特許庁が権利の有効性についての見 解を示すことができるような仕組みを求める声もある。
そして、権利が無効となることをおそれて補正・訂正等が必要なかったにもかかわらず 権利範囲を変更することで、本来得られていたはずの適切な権利範囲を喪失してしまうケ ースが考えられる中、適切な権利範囲を維持したまま、新たな無効理由については、改め て権利の有効性について特許庁による判断を受けたいという要望がある5。
上記(1)について、近年権利化までに要する期間が短くなってきていることから、未だ製 品展開の方向性が定まっていない段階で権利化される場合や、技術の標準化の動向が見え ない段階で権利化される場合なども予想される。そのため、二回目以降の拒絶理由通知に 対する特許請求の範囲の補正の要件が、今日の状況等に即したものであるか、ユーザーニ ーズや他国の制度の現状を調査する必要がある。
また、上記(2)~(4)について、権利化後の一定期間内であれば特許請求の範囲の拡張・変 更を認める米国の再発行制度のような制度や、訂正審判請求等を要件とせずに訂正の再抗 弁を認める制度、権利の有効性について特許庁による判断を受ける制度は、それぞれ導入 を希望する声はあるものの、いずれも権利者と第三者のいずれの立場かによって得られる 利益を異にするものであり、それらの制度を導入するか否かの検討に当たって、ユーザー ニーズや他国の制度の利用実態等の把握は必須である。
そこで、本調査研究では、適切な範囲での権利取得に向けた特許制度についてのユーザ ーニーズ及び他国の制度の現状を調査し、権利の活用のさらなる活性化に向けた検討の場 における基礎資料とすることを目的とする。
4 知的財産戦略本部 知財紛争処理システムの機能強化に向けた方向性について、
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2016/syori_system/hokokusho2.p df
5 「知的財産推進計画2016」の策定に向けた意見募集の結果における日本弁理士会からの意見、
5 2 調査対象
日本、米国、英国、独国、欧州特許庁(EPO)、中国及び韓国における特許査定前の補正 及び特許査定後の訂正に関する制度を調査対象とした。
3 調査研究手法
上記の調査対象について、以下に沿って調査研究を行った。
A.公開情報調査
書籍、論文、判例、調査研究報告書、審議会報告書、データベース情報及びインター ネット情報等を利用して、日本、米国、英国、独国、EPO、中国及び韓国における補正・ 訂正等の制度について調査及び整理した。
B.国内アンケート調査
国内企業1,000者程度を対象に、適切な範囲での権利取得に向けた特許制度の在り方
についてのアンケート調査を実施した。国内企業及び大学等研究機関に対して、郵送にて 調査票を配布し、広く意見を求めた。
調査票郵送配布数:1,093件(内訳:国内企業1,043者 大学等公的研究機関50者)
回収方法:郵送又は電子メール
有効回答数:624件(内訳:国内企業598者 大学等公的研究機関26者)
実施期間:2016年9月6日~2016年10月4日
C.国内ヒアリング調査
前記B. 国内アンケート調査対象者のうち10者に対して、国内ヒアリング調査を実施 した。本調査は、公開情報調査及び国内アンケート調査を踏まえてさらに深掘りすること を目的とした。
アンケート回答から訴訟経験を有する企業又は特徴的な回答をした企業等10者を選定 した。選定に際しては、企業属性や企業規模に偏りがないよう、配慮した。
ヒアリング対象者:10者(内訳:国内企業9者、大学等公的研究機関1者)
ヒアリング方法:面接
実施期間:2016年10月27日~2016年12月1日
D.海外質問票調査
6 E.海外現地ヒアリング調査
米国、英国、独国、中国、韓国の5か国における、前記D. 海外質問票調査対象者の うち、各国3者に対して、海外現地ヒアリング調査を実施した。本調査は、公開情報調査 及び海外質問票調査を踏まえてさらに深掘りすることを目的とした。
海外質問票調査対象者のうち、質問票回答から訴訟経験が豊富である法律事務所(以下、 「事務所」という。)又は特徴的な回答をした事務所を各国3者選定し、ヒアリング調査を 実施した。
ヒアリング対象:15者(内訳: 米国、英国、独国、中国及び韓国の各国3者)
実施期間:2016年11月24日~2016年12月14日
ヒアリング方法:面接。国ごとに、その制度や運用を明確に把握するための質問を 作成し、各国3者に対して同じ質問をした。
ヒアリング事務所(アルファベット順):
【米国】
Birch, Stewart, Kolasch & Birch, LLP Kramer Levin Naftalis & Frankel LLP Sughrue Mion, PLLC
【英国】
EIP Europe LLP Mewburn Ellis Reddie & Grose 【独国(EPO含む)】
BOEHMERT & BOEHMERT Isarpatent
Krieger Mes & Graf v. der Groeben 【中国】
Beijing East IP Ltd.(北京东方亿思知识产权代理有限责任公司) Beijing Sanyou Intellectual Property Agency Ltd.
(北京三友知识产权代理有限公司)
Linda Liu & Partners(北京林达刘知识产权代理事务所) 【韓国】
Kim & Chang(金&張法律事務所) Lee & Ko
7
第
2
部
補正及び訂正に関連する制度及びその利用実態
登録後、明細書や特許請求の範囲(クレーム)などの記載を変更することは、日本で は「訂正」というが、他国では「補正(amendment)」という場合もある。
引用する日本語の翻訳文は原文に記載のとおりとするが、本文中に記載する海外の 制度に関する説明は、日本の制度に整合させ、登録前のものは「補正」、登録後のも のは「訂正」と記載する。
9
A
.総括
本調査では、特許取得前の出願の補正、特許権取得後の訂正審判(日本国特許法126 条)及び特許異議の申立て又は特許無効審判における訂正の請求(同120条の5又は
134条の2)に相当する、6か国(米国、英国、独国、欧州特許庁(EPO)、中国及び韓国)
の制度について調査を行った。
各制度の各種要件は次章以降に記述しているが、本章ではアンケート調査やヒアリ ング調査にて情報を得ることができた、各国ごとの特徴的な事項を以下に「総括」と して記載する。
1 アメリカ合衆国
特許発行後のReissue(再発行)出願が発行後2年以内にされた場合、クレームの範 囲を拡張/変更することが可能である。また、Reissue出願を元にした継続出願及び 分割出願(continuation or divisional Reissue appilcation)も可能であるから、Reissue 出願に係る権利が重要なものである場合や技術標準に関連するものである場合には、 その継続出願や分割出願を継続的に行い、出願の係属を維持する実務が行われている。 また、最初のReissue出願がクレーム範囲の拡張又は変更することを宣誓書等で明示 している場合は、Reissue継続出願やReissue分割出願が当初の特許発行から2年を 経過した後であっても、Reissue継続出願やReissue分割出願においてクレーム範囲 の拡張又は変更をすることが可能である。
新たな特許無効化手続として2011年に創設された当事者系レビュー(Inter Partes Review:IPR)と付与後レビュー(Post Grant Review:PGR)においても、特許権者が 補正を申し立てることが可能である。ただし、この制度では従来の無効化手続よりも 短期間で決着が図られることが求められているためか、実務上では特許権者による訂 正はほとんど認められていない。訂正を必要とする場合は、IPRの手続ではなく、別
途Reissue出願を行い、その手続中で訂正することを現地法律事務所は推奨している。
IPRやPGRが導入されて以降、IPRの対象となった特許クレームのうち約70%が 無効になるか、補正された形で維持されている。また陪審員による裁判とは異なり、 特許や技術の専門家であるUSPTOのPTAB審判官が特許の有効性を判断することか ら、いわゆるパテントトロールやNPE(Non-Practicing Entity)に対する事業会社の 対抗手段として、IPRが有効なものとなっている。
2 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
10
が、訂正は望まない場合には、英国特許庁(UKIPO)に対して、特許の有効性について 意見を求めることができる(74A条、Request for opinion as to validity or
infringement)。この手続は、日本の判定制度(71条)と同様に、法的拘束力を有さず、
UKIPOの意見は公開される。また、特許の有効性だけではなく、被疑侵害物品が特
許権の範囲に含まれるか否かの意見も求めることができる。年間およそ30件の請求 がある。
英国で特許権を取得する方法として、UKIPOの審査を受ける方法と、欧州特許庁 (EPO)の審査を受ける方法がある。補正や訂正に関連して、二つの方法の相違点を現 地法律事務所に確認した。法律や規則に実体的要件の差異はない。しかしながら、特 に新規事項の追加については、UKIPOの審査の方がより柔軟に運用されているよう である。なぜなら、EPO審査官は英語を母国語とする審査官は少ないこともあり、 新規事項の追加に関しては、文字通り、明細書の記載に拠る傾向が強いようである。
一方、UKIPOの審査官は当然英語に精通しているため、明細書の記載だけではなく、
明細書全体の記載から新規事項の追加を判断していると、現地法律事務所からの意見 があった。
3 ドイツ連邦共和国
ドイツの特許法や規則には、訂正に関する要件について詳細な規定はない。法律に は原則が記載されているのみで、手続的な要件は判例法によって規定されている。
特許権者が自ら訂正を求める64条の訂正では、訂正を求める理由を記載する必要 はない。訂正の請求時に新たな先行文献を示しても、訂正後クレームの特許性は審査 されない。
現地法律事務所によると、欧州での特許侵害訴訟のうち、ドイツで提起されたもの
は約80%を占め、年間約1,600件の訴訟が提起されている。訴訟が多い理由として、
一つ目はドイツの市場が大きく、二つ目は訴訟の審理が速く、その費用も高価ではな いことであることが現地法律事務所によって挙げられた。ドイツの訴訟費用と比較す ると、英国では約3倍、米国は約10倍の費用を要するようである。
11 4 欧州特許庁 (EPO)
登録後の誤記や誤訳の訂正は、基本的には認められない。明白な誤記など限られた 場合のみ訂正が認められる。明白な誤記については、判例によって規定されている。
訂正審判(Article 105a)では、減縮に該当するか及び当初明細書の開示の範囲内か、 形式的なことを審査するのみであって、新たに新規性や進歩性の審査をすることはな い。新たな先行技術に対する特許性の審査はされないし、新たな引例をサーチするこ ともない。異議申立における訂正(Article 101(3))では、審査官自身が別の引例をサー チすることは規定上可能ではあるが、実際はサーチすることはほとんどない。
異議申立における訂正手続において、特許権者は複数の訂正案を提示することを可 能とする運用がされている(Auxiliary Request)。この運用について、ドイツ及び英国 の現地法律事務所の意見を聞いた。この運用では、数多くの補正案を提示することが 可能であって、10を超える補正案が提示された事件もあったようである。このよう な多数の補正案が提示されると、その理解だけでも多大な労力を要するため
Auxiliary Requestは非効率であると指摘する現地法律事務所も多かった。一方、英
国やドイツの国内手続でも、異議又は無効において複数の補正案提示は可能であるが、 その数は1つか2つ程度に制限されている。
5 中華人民共和国
中国には、特許権者が自発的に登録後に特許を訂正する手続(訂正審判)がなく、無 効宣告(無効審判)手続中のみ、特許登録後の訂正が可能である。2016年10月中国知 識産権局(SIPO)は審査指南の改正案が公表され、その中で無効宣告請求手続中の訂正 の要件の緩和が提案されたが、訂正審判制度の導入までは言及されていない。現地法 律事務所によると、訂正審判制度の導入の議論さえも、中国国内ではされていないよ うである。
訂正審判制度がないため、特許権者が自発的に無効宣告を請求し、その手続中に特 許権者がクレームの訂正を行う方法がある。この方法の利用実態やその利点を現地法 律事務所に確認した。今回の調査では、各国3つの法律事務所に同じ質問を行ったが、 この点については意見が分かれた。この方法を推奨する事務所は、特許権者が自らの 特許権の欠陥を訂正する唯一の手段であって、特許権者が自ら請求しても特段の不利 益は発生しないことを理由とした。さらに、無効宣告請求の決定には一時不再理が適 用され、特許権者が請求した特許宣告請求の手続きにおいて、既知の先行技術を克服 し、無効にされなければ、他人が同一の証拠と理由で特許を無効化することが不可能 となることも理由とした。他方、この方法を推奨しない事務所は、自らが請求した無 効宣告請求によって全部無効になるリスク及び特許権者が無効宣告手続中にする弁 明が包袋禁反言を形成し、後の権利行使時の障害になりかねないことを理由に挙げた。
12
権利者と一般公衆との利益のバランスを図るため、特に新規事項の追加は、認めない というSIPOの意図があるようである。
6 大韓民国
訂正審判を規定する韓国特許法136条は、訂正を請求できる目的に「誤訳の訂正」 が挙げられていない。しかし、誤訳の訂正を「分明でないように記載されたものを明 確にする場合(同条1項3号)」として、訂正審判を請求する実務もある。ただ、審査 段階の補正よりも難しく、審判部(審判長)によって訂正を認める範囲のばらつきが大 きいようである。
訂正審判(136条)及び特許無効審判手続における特許の訂正(133条の2)の要件とし て、136条4項に「請求範囲を実質的に拡張したり変更することができない。」と規 定されている。日本にも同様の規定があるが、この要件は訂正により新しい目的及び 作用効果を奏するか否かによって判断されている。新しい目的及び作用効果を奏する 場合は、第三者に不測の損害を与える可能性があることが、訂正を認めない理由とさ れている。過去、裁判所は、訂正前の構成要件を上位概念から下位概念に又は広い数 値限定から狭い数値限定に訂正するような内的付加の場合は、たとえ付加によって顕 著な効果を奏したとしても「実質的な変更」には該当しないとして容認していた。一 方、新たな構成をクレームに付加する外的付加の場合、その付加した構成により新し い目的及び作用効果を奏する場合は、第三者に不測の損害を与える可能性があるとし て容認されていなく、外的付加の訂正は認容されにくいという実態があった。しかし、 2011年の大法院判決は、内的付加か外的付加かといった形式的な記載のみをもって 対比するのではなく、発明の詳細な説明を含む明細書及び図面の全体内容を実質的に 対比して判断することが合理的であると判示した。したがって、現在は特許請求の範 囲が減縮された場合で、訂正前後を比較して新しい目的ないし効果が付加されず、第 三者に不利益が発生しない場合には、訂正が認容されるという実務が行われており、 従来に比べれば訂正が認められやすくなった。ただし、審判官や裁判官によって、こ れに関連する判断の幅に差が見受けられ、「実質的な変更」の該否判断が難しい点も 残されている。
13
B
.日本
1 権利化前における補正 1.1 関連する法令
(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願 書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。た だし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をする ことができる。
一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を 含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において 同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に 受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合におい て、同条の規定により指定された期間内にするとき。
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受け た拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。 2 第三十六条の二第二項の外国語書面出願の出願人が、誤訳の訂正を目的として、 前項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、その 理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。
3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするとき は、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求 の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の 規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国 語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補 正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは 図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した 事項の範囲内においてしなければならない。
4 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲 について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をするこ とができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の 範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件 を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。
14
よる通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に 掲げる事項を目的とするものに限る。
一 第三十六条第五項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明 を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記 載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び 解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三 誤記の訂正
四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項につい てするものに限る。)
6 第百二十六条第七項の規定は、前項第二号の場合に準用する。
(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)
第五十条の二 審査官は、前条の規定により特許出願について拒絶の理由を通知し ようとする場合において、当該拒絶の理由が、他の特許出願(当該特許出願と当該他 の特許出願の少なくともいずれか一方に第四十四条第二項の規定が適用されたこと により当該特許出願と同時にされたこととなつているものに限る。)についての前条 (第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第 百六十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知(当該特許出願 についての出願審査の請求前に当該特許出願の出願人がその内容を知り得る状態に なかつたものを除く。)に係る拒絶の理由と同一であるときは、その旨を併せて通知 しなければならない。
(訂正審判) 第百二十六条
7 第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後に おける特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際 独立して特許を受けることができるものでなければならない。
1.2 補正の概要1
手続の円滑で迅速な進行を図るためには、出願人が初めから完全な内容の書類を提 出することが望ましい。しかし、先願主義の下では出願を急ぐ必要があること等によ り、実際には完全なものを望み得ない場合がある。また、審査の結果、拒絶理由が発
1 特許庁 特許・実用新案審査基準 第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第1章 補正
の要件(特許法第17条の2)、
15
見された場合等、明細書等に手を加える必要が生じる場合もある。そのため、第17 条の2は、明細書等について補正をすることができることとしている。
ただし、時期的にいつでも自由に補正ができるとすると、手続を混乱させ、出願の 処理の遅延を招くから、同条は、補正をすることができる時期を規定している(時期 的要件)。また、迅速な権利付与を担保し、出願の取扱いの公平性や出願人と第三者 のバランスを確保するため、同条は、補正をすることができる範囲を規定している(実 体的要件)。
1.3 補正の時期的要件2
出願人は、以下の(i)から(v)までのいずれかの時期に、明細書等について補正をする ことができる(第17条の2第1項)。
(i) 出願から特許査定の謄本送達前まで(ただし、拒絶理由通知を最初に受けた後を 除く。)(第17条の2第1項)
(ii) 最初の拒絶理由通知の指定期間内(第17条の2第1項第1号)
(iii) 拒絶理由通知を受けた後の第48条の7の規定による通知の指定期間内(第17
条の2第1項第2号)
(iv) 最後の拒絶理由通知の指定期間内(第17条の2第1項第3号) (v) 拒絶査定不服審判の請求と同時(第17条の2第1項第4号)
1.4 補正の実体的要件2
出願人は、実体的要件を満たす範囲で、明細書等について補正をすることができる (第17条の2第3項から第6項まで)。実体的要件は、補正をする時期に応じて、以 下のとおり定められている。明細書等について補正をすることができる範囲は、審査 が進行するにつれて次第に制限される。
1.4.1 一回目の審査結果が出願人に送られるまで
補正は、新規事項を追加する補正であってはならない(第17条の2第3項)。
1.4.2 最初に拒絶理由通知がなされた後
(1) 補正が以下の補正時期(i)又は(ii)のいずれかの時期にされた場合は、その補正は、 以下の実体的要件(i)及び(ii)の両方を満たさなければならない。
2 特許庁 特許・実用新案審査基準 第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第1章 補正
の要件(特許法第17条の2)、
16 補正時期
(i) 最初の拒絶理由通知の指定期間内(ただし、第50条の2の規定による通知 を伴う拒絶理由通知の指定期間内にする場合を除く。)
(ii) 拒絶理由通知を受けた後の第48条の7の規定による通知の指定期間内
実体的要件
(i) 新規事項を追加する補正でないこと(第17条の2第3項)。
(ii) 発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないこと(第17条の2第4項)。
(2) 補正が以下の補正時期(i)から(iii)までのいずれかの時期にされた場合は、その 補正は、以下の実体的要件(i)から(iii)までの全てを満たさなければならない。
補正時期
(i) 最後の拒絶理由通知の指定期間内
(ii) 第50条の2の規定による通知を伴う拒絶理由通知の指定期間内
(iii) 拒絶査定不服審判の請求と同時
実体的要件
(i) 新規事項を追加する補正でないこと(第17条の2第3項)。
(ii) 発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないこと(第17条の2第4項)。
(iii) 特許請求の範囲についてする補正であって、次に掲げる事項を目的とする補
正であること(目的外補正でないこと)。
(a) 請求項の削除(第17条の2第5項第1号)
(b) 特許請求の範囲の限定的減縮(第17条の2第5項第2号) (c) 誤記の訂正(第17条の2第5項第3号)
(d) 明瞭でない記載の釈明(第17条の2第5項第4号)
さらに、上記(b)を目的とする補正については、補正後における特許 請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が独立して特 許を受けることができるものでなければならない(独立特許要件)(第17 条の2第6項で準用する第126条第7項)。
また、実体的要件を満たさない補正の取扱いも、補正をする時期によって異なる。
1.4.1又は1.4.2(1)の場合において補正が実体的要件を満たさないときは、拒絶理由と
17
補正の時期的要件と実体的要件との関係は、以下の図によって表すことができる 3。
1.5 特定時期における補正の制限4
1.5.1 時期的要件(特定時期)
拒絶理由通知を受けるたびに特許請求の範囲を自由に変更できることとすると、そ の都度はじめから審査をし直すことになりかねない。これは、審査の遅延をもたらす 一因となるだけでなく、適切に補正がされた出願とそうでない出願との間の取扱いの 公平性を損なう一因ともなる。そこで、出願間の公平性を確保しつつ、迅速な審査を 達成するために、最後の拒絶理由通知及びそれに対する補正の内容的制限についての 制度を設け、最後の拒絶理由通知の応答時にする補正については、既になされた審査 の結果を有効に活用できる範囲に制限されている。
3 特許庁、平成27年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト、特許の審査基準及び審査の運
用(説明用資料)74ページ、
https://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h27_jitsumusya_txt/01_s.pdf
4 特許庁 特許・実用新案審査基準 第I部 審査総論 第2章 審査の手順 第3節 拒絶理由通知
2.2 最後の拒絶理由通知、
18
「最後の拒絶理由通知」とは、原則として「最初の拒絶理由通知」に対する応答時 の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知 とされている。
二回目以降の拒絶理由通知を「最後の拒絶理由通知」とするか否かは、拒絶理由通 知の形式的な通知回数によってではなく、実質的に判断されている。
また、拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知がされた場合及び拒絶査定不服審 判の請求と同時にする場合、特許請求の範囲についてする補正は、「最後の拒絶理由 通知」を受けた後の補正と同じ要件を満たす必要がある。
以下の特定時期における特許請求の範囲についての補正は、第17条の2第3項(新 規事項追加禁止の規定)及び第4項(シフト補正禁止の規定)の要件に加えて、第17条 の2第5項(目的外補正禁止の規定)及び第6項(独立特許要件)の要件を満たす必要が ある。これらの規定に違反する補正は目的外補正といわれている(第17条の2第5項)。
特定時期
(i) 最後の拒絶理由通知の指定期間内
(ii) 第50条の2の規定による通知を伴う拒絶理由通知の指定期間内
(iii) 拒絶査定不服審判の請求と同時
1.5.2 目的外補正の禁止 5
上記特定時期における特許請求の範囲についての補正は、以下の(a)から(d)までの 事項のいずれかを目的とするものに限られている。
目的
(a) 請求項の削除 (同項第1号)
(b) 特許請求の範囲の限定的減縮 (同項第2号) (c) 誤記の訂正 (同項第3号)
(d) 明瞭でない記載の釈明 (同項第4号)
この規定は、発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的を考慮しつつ、迅 速かつ的確な権利付与を確保する審査手続を確立するために、最後の拒絶理由通知以 降の補正を、既になされた審査結果を有効に活用できる範囲内に制限する趣旨で設け
5 特許庁 特許・実用新案審査基準 第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第4章 目的
外補正(特許法第17条の2第5項)、
19
られた。また、第50条の2の規定による通知に対する補正については、分割出願制 度の濫用抑止の観点から同じ制限が課されている。
この規定に違反する補正は、新規事項を追加するものとは異なり、発明の内容に関 して実体的な不備をもたらすものではないから、無効理由とはされていない。
審査官は、補正が第17条の2第5項第2号の限定的減縮を目的とするものである か否かを、以下の(i)から(iii)までの要件が全て満たされているか否かで判断する。
(i) 補正が特許請求の範囲を減縮するものであること
(ii) 補正が補正前の請求項に記載された発明の発明を特定するために必要な事
項を限定するものであること。
(iii) 補正前発明と補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解
決しようとする課題が同一であること。
また、第17条の2第5項第4号に規定されている「明瞭でない記載の釈明」は、 拒絶理由通知で指摘された拒絶の理由に示す事項についてするものに限られている。 これは、審査官が拒絶理由通知で指摘していなかった事項についての補正によって、 既に審査した部分が補正され、新たな拒絶理由が生じることを防止するためである。
1.5.3 独立特許要件 6
第17条の2第6項は、第126条第7項の規定を準用して、特許請求の範囲の限定 的減縮(第5項第2号)を目的とする補正については、更に補正後における特許請求の 範囲に記載されている事項により特定される発明が独立して特許を受けることがで きるものでなければならないこと(独立特許要件)を規定している。
特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正がされると、他の事項を目的とする 補正の場合とは異なり、新たな先行技術調査が必要となることがある。
新たな先行技術調査がなされた結果、補正後の発明が特許可能なものでなかった場 合に、改めて拒絶理由を通知することとすると、更に補正がされて、再度の審査が必 要となることがある。そこで、特許法は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする 補正が独立特許要件を満たさない場合は、その補正を却下し(第53条第1項)、審査 が繰り返しなされることを回避するとともに、出願間の取扱いの公平性を確保するこ ととしている。
なお、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としない、請求項の補正については、こ の要件は課されない。
6 特許庁 特許・実用新案審査基準 第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第4章 目的
外補正(特許法第17条の2第5項)、
20
補正後発明が独立して特許を受けることができるか否かは、以下の規定に基づき判 断される。
(i) 発明該当性及び産業上の利用可能性(第29条第1項柱書) (ii) 新規性(第29条第1項)
(iii) 進歩性(第29条第2項) (iv) 拡大先願(第29条の2) (v) 不特許事由(第32条)
21 2 訂正審判
2.1 関連する法令 (訂正審判)
第百二十六条 特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂 正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に 掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮 二 誤記又は誤訳の訂正 三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しな いものとすること。
2 訂正審判は、特許異議の申立て又は特許無効審判が特許庁に係属した時からそ の決定又は審決(請求項ごとに申立て又は請求がされた場合にあつては、その全ての 決定又は審決)が確定するまでの間は、請求することができない。
3 二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、 請求項ごとに第一項の規定による請求をすることができる。この場合において、当該 請求項の中に一群の請求項があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなけ ればならない。
4 願書に添付した明細書又は図面の訂正をする場合であつて、請求項ごとに第一 項の規定による請求をしようとするときは、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項 の全て(前項後段の規定により一群の請求項ごとに第一項の規定による請求をする場 合にあつては、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全て) について行わなければならない。
5 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、 特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の場合 にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出 願に係る特許にあつては、外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなけれ ばならない。
6 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を 拡張し、又は変更するものであつてはならない。
7 第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後に おける特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際 独立して特許を受けることができるものでなければならない。
22
第百二十八条 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨 の審決が確定したときは、その訂正後における明細書、特許請求の範囲又は図面によ り特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がさ れたものとみなす。
特許について無効理由があるときには、それを理由とする無効審判の請求に対して 特許が無効にされることを防ぎ、又は無効審判の請求をされることを予防し、また、 その特許について不明確な部分があるときには、関係者間に争いが生じたり、第三者 もまた不明確な権利の存在による係争問題に煩わされる等、公益に反する結果を生じ ることから、その不明確な部分を明確にする必要がある。訂正審判の制度は、このよ うなときに特許権者が自発的に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を訂 正する権利を保証するものである 7。
2.2 訂正審判の請求の対象8
訂正審判の請求の対象は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」で ある。例えば、願書、要約書、特許公報などの訂正は対象とならない。
ここで、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」とは、特許権の設定 登録時のものである。
2.3 訂正審判の請求人9
請求人は、特許権者である。
専用実施権者、質権者、職務発明による通常実施権者(第35条第1項)、専用実施 権者の許諾による通常実施権者(第77条第4項)又は特許権者の許諾による通常実施 権者(第78条第1項)があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判 を請求することができる(第127条)。
特許権の消滅後に請求するときにおいて、当該特許権について権利譲渡がされてい るときの請求人は、消滅時の特許権者である。
特許権の共有者がその共有に係る権利について請求するときは、共有者の全員が共 同して請求しなければならない(第132条第3項)。
7 特許庁 審判便覧(第16版) 54-00 訂正審判、
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/54-00.pdf
8 特許庁 審判便覧(第16版) 54-01 訂正審判の請求の対象、
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/54-01.pdf
9 特許庁 審判便覧(第16版) 54-02 訂正審判の当事者、
23
第百二十七条 特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十 七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これ らの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。
第百三十二条
3 特許権又は特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請 求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。
2.4 訂正審判の請求ができる時期10
特許権者は、権利の設定の登録があった後において、訂正審判を請求することがで きるが、特許異議の申立て又は無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決 が確定するまでの間は、訂正審判を請求することはできない(第126条第2項)。なお、 一部の請求項について特許異議の申立て又は無効審判がされているときは、当該特許 異議の申立て又は無効審判がされていない請求項についても、当該特許異議の申立て 又は無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決が確定するまでの間は、訂 正審判を請求することはできない。
訂正審判は、特許権の消滅後においても請求することができるが、特許異議の申立 て(第113条)又は特許無効審判(第123条第1項)により、全ての請求項に係る特許が 取消決定により取り消され、又は特許無効審判により無効にされた後は、請求するこ とができない(第126条第8項)。
なお、特許権の消滅の例として以下の場合がある。
◯ 存続期間の満了(第67条)
10 特許庁 審判便覧(第16版) 54-03 訂正審判の請求ができる時期、
24 ◯ 相続人がない場合(第76条) ◯ 放棄(第97条)
◯ 料金不納(第112条第4項)
◯ 独占禁止法による取消(独占禁止法 11第100条)
2.5 訂正審判の請求単位12
特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに訂正の請求をすることができ る。 (第126条第3項)。「請求項ごとに請求」する場合であって、訂正する請求項の 間に引用関係があるときは、その関係にある請求項を単位として訂正の請求をする必 要がある。この関係を有する請求項の群を「一群の請求項」と呼ぶ。
2.6 訂正審判の目的 13
訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限られている(第126条1項)。
(1) 特許請求の範囲の減縮(同項ただし書き一) (2) 誤記又は誤訳の訂正(同項ただし書き二) (3) 明瞭でない記載の釈明(同項ただし書き三)
(4) 請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当 該他の請求項の記載を引用しないものとすること)(同項ただし書き四)
(1) 「特許請求の範囲の減縮」とは、特許請求の範囲の記載がそのままでは公知 技術を包含する瑕疵がある、同一人の他の特許権と同一であるとして特許無効又は特 許取消の理由がある等と解される恐れがあるときに、請求項の記載事項を限定するこ と等により、特許請求の範囲を減縮することをいう。請求項の削除(全請求項の削除 を含む)もこれに該当する。
(2) 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又 は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が 当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。
「誤訳の訂正」とは、翻訳により外国語書面における意と異なるものとなった記 載(誤訳)を、外国語書面の意を表す記載に訂正することをいう。誤訳の訂正が認め
11 正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」、
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO054.html
12 特許庁 審判便覧(第16版) 38-01 訂正の請求単位と一群の請求項、
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/sinpan-binran_16/54-03.pdf
13 特許庁 審判便覧(第16版) 38-03 訂正要件、
25
られるためには、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載の意味が外 国語書面に対応する記載の意味と異なることが必要である。
(3) 「明瞭でない記載の釈明」とは、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は 図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、特許がされた明細書、特許請求の範囲 又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記 載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本 来の意を明らかにすることをいう。
(4) 「請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を 当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)」とは、特許請求の範囲の訂正 について、訂正対象とされている複数の請求項のうち、ある請求項の記載を他の請求 項が引用するような引用関係がある請求項の記載を、その内容を変更することなく当 該請求項の記載を引用しない形へと書き替えることをいう。
この訂正は、ある請求項が「一群の請求項」として扱われないようにするために、 請求項間の引用関係を解消することを目的としてされるものである。
この訂正が認められるためには、訂正前後において、請求項の中に含まれる発明 ごとに一対一の対応関係を有すること、訂正前後の内容が実質的に同一であって、何 ら変更が生じていないことが必要である。
また、訂正をするときは、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面に記載し た範囲内においてしなければならず、新規事項を追加するような訂正は認められない (第126条第5項)。ただし、誤記又は誤訳を目的とする訂正のときは、設定登録され た明細書、特許請求の範囲又は図面ではなく、願書に最初に添付した明細書、特許請 求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあっては外国語書面)に記載した事 項の範囲内においてすることができる(同項かっこ書き)。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない(同 条6項)。「実質上特許請求の範囲を拡張する」とは、特許請求の範囲の記載自体を訂 正することによって特許請求の範囲を拡張するもの(例えば、請求項に記載した事項 をより広い意味を表す表現に入れ替える訂正)のほか、特許請求の範囲については何 ら訂正することなく、ただ発明の詳細な説明又は図面の記載を訂正することによって 特許請求の範囲を拡張するようなものをいう。
2.7 訂正審判の審理の方式
26 (審判における審理の方式)
第百四十五条 特許無効審判及び延長登録無効審判は、口頭審理による。ただし、 審判長は、当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権で、書面審理によるものと することができる。
2 前項に規定する審判以外の審判は、書面審理による。ただし、審判長は、当事 者の申立により又は職権で、口頭審理によるものとすることができる。
2.8 訂正審判の職権審理
審判においては、当事者又は参加人が申し立てない理由についても、審理すること ができるが、請求人が申し立てない請求の趣旨については、審理することができない (第153条)。
第百五十三条 審判においては、当事者又は参加人が申し立てない理由についても、 審理することができる。
2 審判長は、前項の規定により当事者又は参加人が申し立てない理由について審 理したときは、その審理の結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、 意見を申し立てる機会を与えなければならない。
3 審判においては、請求人が申し立てない請求の趣旨については、審理すること ができない。
2.9 訂正審判の審決の効果
訂正を認める旨の審決が確定したときは、その訂正後における明細書、特許請求の 範囲又は図面により、特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許 権の設定の登録がされたものとみなされる(第128条)。
27 2.10 訂正審判の利用実態
訂正審判の請求件数を以下に示す 14。
14 特許庁、特許行政年次報告書2016年版〈統計・資料編〉、第1章 総括統計、
28 3 訂正の請求
3.1 関連する法令 第五章 特許異議の申立て
(意見書の提出等)
第百二十条の五 審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人 に対し、特許の取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機 会を与えなければならない。
2 特許権者は、前項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細 書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、 次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮 二 誤記又は誤訳の訂正 三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しな いものとすること。
3 二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、 請求項ごとに前項の訂正の請求をすることができる。ただし、特許異議の申立てが請 求項ごとにされた場合にあつては、請求項ごとに同項の訂正の請求をしなければなら ない。
4 前項の場合において、当該請求項の中に一の請求項の記載を他の請求項が引用 する関係その他経済産業省令で定める関係を有する一群の請求項(以下「一群の請求 項」という。)があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならな い。
5 審判長は、第一項の規定により指定した期間内に第二項の訂正の請求があつた ときは、第一項の規定により通知した特許の取消しの理由を記載した書面並びに訂正 の請求書及びこれに添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面の副本を特 許異議申立人に送付し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなけれ ばならない。ただし、特許異議申立人から意見書の提出を希望しない旨の申出がある とき、又は特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる 特別の事情があるときは、この限りでない。
6 審判長は、第二項の訂正の請求が同項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、 又は第九項において読み替えて準用する第百二十六条第五項から第七項までの規定 に適合しないときは、特許権者及び参加人にその理由を通知し、相当の期間を指定し て、意見書を提出する機会を与えなければならない。